毎日、どうでもいいことで意思決定したくない
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以前は、朝、仕事へ行く前に革靴を見て、今日は黒か茶かを考えていました。
靴下を選び、服との組み合わせが変ではないかを見る。出かける前には、財布、鍵、イヤホンを持ったか確認する。今日はどのバッグがちょうどいいかも考える。そんな朝でした。
どれも、そこまで重要な話ではありません。革靴の色を間違えたところで、その日が台無しになるわけでもない。それなのに、こういう「別にどちらでもいいけれど、いちおう選ばなければならないこと」は毎日あります。
一回なら数秒です。でも毎朝、毎回となると、地味に面倒です。
今は、こうした選択を早く済ませるのではなく、そもそも決めなくて済むようにしています。
……と書くと、最近思いついた生活改善のようですが、振り返ってみれば数年前から自然にやっていました。どうやら私は、どうでもいいことでなるべく頭を使いたくないらしい。
仕事用の革靴は色を揃えた
仕事用の革靴は、色を統一しています。
以前は複数の色を持っていたので、出かける前に「今日は黒か茶か」「この服ならどちらが合うか」と考えていました。服装にこだわる人なら楽しい時間なのかもしれませんが、私にとっては毎朝発生する小さな宿題でした。
色を揃えてしまえば、その宿題自体が出ません。履く靴を選ぶことはあっても、少なくとも色の組み合わせは考えなくていい。
ここで大事なのは、革靴選びが上手になったわけではないことです。センスを磨いたわけでも、素早く正解を出せるようになったわけでもありません。ただ、問題を一問減らしました。
靴下も、できるだけ同じものにした
仕事用の靴下も、できるだけ同じものを揃えています。
朝に革靴や服との組み合わせを考えなくていい。それに、洗濯後に同じ柄の片割れを探す必要もありません。片方だけ傷んでも、残ったもの同士で何事もなかったように再結成できます。
靴下の片方は、なぜか消えます。
洗濯機が食べているのか、クローゼットの奥に靴下だけが住む街でもあるのか分かりませんが、とにかく数が合わなくなる。同じ靴下なら、一足欠けるたびに残された片方まで引退させずに済みます。
これは収納をきれいにする話というより、「どれとどれがペアか」という判断そのものをなくす話です。数秒のこととはいえ、やらなくていいなら、そのほうが楽です。
持ち物は小さいバッグをコアにした
もう一つ、数年前から続けているのが、必要な持ち物をひとまとまりにすることです。
以前は仕事用とプライベート用でバッグを分けていました。バッグを替えるたびに、必要なものも詰め替えます。
財布は移したか。鍵は入れたか。イヤホンはどちらのバッグだったか。忘れ物はないか。
家を出たあとで急に心配になり、バッグの中をもう一度探すこともありました。財布を確認するために財布を探す。あれは何とも言えない時間です。
そこで、日常的に必要なものを小さいバッグへまとめました。入れているのは、だいたい次のものです。
- 財布(決済手段と本人確認資料)
- 鍵
- イヤホン
- 常備薬
- エコバッグ
常備薬は偏頭痛対策です。スマホは基本的にポケットへ入れていますが、小さいバッグに入れることもあります。
普段は、この小さいバッグを大きいバッグの中にそのまま入れています。買い物など短時間の外出なら、小さいバッグだけを取り出して持っていきます。
仕事道具、定期券、PC、ノート、その日に必要なものは大きいバッグ側です。自分の中では、こんな構造になっています。
小さいバッグ = 生活のコア
大きいバッグ = 荷物を追加する母艦
「近所へ買い物に行くのに母艦はいらないな」という判断はします。でも、生活に必要なコアはすでにまとまっているので、一から持ち物を組み立て直さなくていい。
この仕組みにしてから、特に忘れ物が減りました。ただ、それ以上に大きかったのは、「忘れ物していないかな」「今日は何を持っていこう」「このバッグでいいかな」と考える回数そのものが減ったことです。
持ち物の数を極限まで減らしたいわけではありません。便利なバッグを紹介したいわけでもない。必要なものを一つの単位にして、毎回の確認を減らしたかっただけです。
革靴も靴下もバッグも、やっていることは同じだった
革靴の色を揃えること、同じ靴下を持つこと、必需品を小さいバッグへまとめること。
一見すると別々の工夫ですが、こうして並べてみると、全部同じことをしていました。
選択肢をあらかじめ減らし、毎回の判断を仕組みに置き換えていたのです。
革靴なら「何色にするか」を消す。靴下なら「どれと組み合わせるか」を消す。バッグなら「必需品を何に入れ替えるか」を消す。
毎回うまく選ぶのではなく、そもそも選ばなくていい形にしておく。
たぶん、私にとって楽なのはここです。朝の支度が何分短くなったかは測っていませんし、劇的な時間短縮になっているとも思いません。それよりも、頭の中で小さな確認を何度も繰り返さなくてよくなったことのほうが大きい。
「効率化」というほど大げさではないけれど、気持ちのノイズが少し減ります。
あとからジョブズやベゾスの話を思い出した
ここまで考えて、スティーブ・ジョブズの有名な服装を思い出しました。
ジョブズは、黒いタートルネック、ジーンズ、スニーカーという、ある程度固定した服装で知られています。評伝によると、日々の便利さもあって「自分の制服」という考えを気に入っていたようです。
もちろん、これを読んでジョブズと同じ服を着ようとは思いません。黒いタートルネックが私に似合う保証もない。自分が数年間なんとなくやっていたことを振り返ったら、「重要ではない選択肢を先に減らす」という点では少し似ていた、というだけです。
ジェフ・ベゾスも、2018年の講演で、頭を使う会議は昼前に置き、午後5時になったら負荷の高い話を翌朝に回すと話しています。経営者として一日に大量の決定をする必要はなく、質の高い決定を三つほどできれば十分だ、という趣旨の発言もしています。
企業経営の判断と、今日の靴下をどうするかは、さすがに同じ話ではありません。規模が違いすぎます。
ただ、意思決定には数だけでなく質もある、という考え方は日常にもつながります。企業経営ほど大げさな話ではなくても、どうでもいいことで頭を使わず、考える必要があることに頭を残しておく。私が革靴やバッグでやっていたことを言葉にすると、たぶんそういうことです。
本当に考えるべきことに頭を使いたい
重要な選択まで減らしたいわけではありません。
仕事で何を優先するか。誰に何を伝えるか。家族とどう過ごすか。何に時間を使うか。そういうことは、その都度きちんと考えたい。
むしろ、そのために、革靴の色や靴下のペアで頭を使いたくないのです。
毎日繰り返す小さな判断ほど、「もっと上手に判断する方法」ではなく、「そもそも判断しなくて済む方法」を考えたほうが楽なのかもしれません。
私の場合は、革靴を揃え、靴下を揃え、生活のコアを小さいバッグにまとめる形になりました。次にまた毎日同じことで迷っている自分に気づいたら、選び方を調べる前に、選ばなくて済む形にできないかを考えてみようと思います。
参考
- Walter Isaacson, Steve Jobs(ジョブズの「自分の制服」に関する記述)
- A Conversation with Jeff Bezos(The Economic Club of Washington, D.C.、講演記録PDF)